蘇った青春・社会人リカレント教育・生涯学習

春
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蘇った青春・社会人リカレント教育・生涯学習

今回は60歳近くで高校に編入されて、電気の勉強を志した宮西さんを紹介させて頂きます。元々は建築の勉強をされ、2級建築士や宅建の資格を取得され、自分で山小屋を作り、電気工事をやりたいという理由で、電気の学ばれました。人生の大先輩ではありますが、同じ時期に入学し、クラスメートとして同じ時間を共有させて頂いたことは、大変恵まれていたと今でも思います。

宮西さんは肉屋の社長で、狂牛病の時に新しい事業に変換する必要を見出され、不動産業に転身されました。現在は競売物件の売買取引を中心に現役で頑張られております。

よく始業前の食堂でその人生哲学を拝聴させて頂きまいしたが、今でも記憶に残っているのが、「ウサギとかめ」のお話や、「大体の人が儲けようとして商売をやるけど、実際は損しないようにやるのが大事」という経験則を教えて頂きました。

今回はご本人の了解をとり、当時の宮西さんの高校生活に書かれた文章を紹介させて頂きます。

蘇った青春

私は中学校を卒業すると技術を身に付ける仕事を覚えることが良いと父親の薦めで、ある左官屋に就職しました。給料は住み込みで1ヶ月五百円でした。今から三十数年前のことです。就職第1日目、仕事が終わり、今の時代と違い15、6才の少年にはテレビもラジオもなく、親が買い与えてくれた風呂敷1個だけのなにもない部屋で自分の家は良いな・・・家族と暮らすことが出来、両親のそばにいるだけで幸せなんだと、その時初めて家族の良さが分かり、淋しさをこらえていたのを、今でもはっきりと昨日のことのように覚えています。

自分の自転車を持てない時代でしたから、月2回の休日には家に歩いて帰りました。歩いて1時間くらいの距離でした。休日に自宅に帰り、家族の顔を見ることができるのが唯一の救いでした。しかし両親は共稼ぎで、日中は家に帰っても誰もいませんでした。夕方両親が帰ってきて、2、3時間すると、今度は自分が帰らなければなりません。暗い夜道を歩いて帰る時、言葉では言い表すことの出来ない無性に淋しい思いをしたものでした。

仕事は半年もすれば、すっかり慣れ、最初はセメント袋などの重いものを担ぐものも、やっとでしたが、ひょいっと軽々と担ぐことができるようになり、リヤカーに重い荷物をたくさん積み、満身の力をこめ自転車のペダルを踏んだものでした。重労働や淋しさは時間がすぎるにつれ徐々に慣れ、あまりに気にならなくなりましたが、毎朝仕事の現場に向かう途中、友達や同級生を見かけることが、最も辛く悲しい思いでした。今の高校生はあまり帽子をかぶっていませんが、昔は帽子に二本の白線をつけ皮のカバンをもち、さっそうとしているのを見るにつけ、月日がたつにつれ、なおさら口惜しさと惨めさが、日々つのるおもいでした。

そして思いました。自分の今置かれた立場はウサギとカメの童話の亀そのものだと。「わざわい転じて福となる」のことわざのように、その時あまりよくないと思えることでも、後々良い方向に結びつけることのできるように、心がけるようになり、それからダメなものはダメで、早く見切りをつける心構え、また少しでも可能性のあると判断したことは、最後の最後まで諦めずにコツコツと努力することにより、いつか陽のあたる場所に出たいと、自分なりにベストを尽くしていきました。

現在、食肉販売と不動産を天職としていますが、二級建築士の試験に合格して、建築部門に挑戦したいと思い、また長年機会があったら定時制高校に行こうと、心に決めていたので、思い切って入学しました。入学にあたりいろいろ大変な問題がありました。それは今まで朝9時ごろから夜中の10時ころまで働いていたので、労働時間をどのように学校へいくために5時までに切り上げ短縮できるか、また1日40本吸っているタバコをどのようにしてやめるか。タバコは勉強や考え事をするとき吸いたくなる、その人その人の個人差があり、人それぞれに違いはあると思いますが、私の場合授業中でもすいたくなるタイプだと自分ではよくわかるので、タバコの代わりに授業中にガムをかんでいて注意を受けたこともありました

それもまた美しい思い出の一つとして私の頭の片隅に残っていくだろうと思います。

入学して気付いたことの一つに、英語のアルファベットの順序などの常識的な事を忘れているということがありました。また、体育の授業では、アキレス腱がパーンパーンにはり、切れるのではないかと思った事もありましたが、今は体力的にも精神的にも蘇った青春という気持ちです。

なんとなく無意味に月日を過ごしたくないという思いで、入学したのですから、健康で昼間働き、夜勉強する今の生活を大切に、卒業を目指して頑張りたいと思います。

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