※本記事は、烏原貯水池・烏原水源を近代水道システムとして再構築する調査記事の一部です。全体像は固定ページ「烏原貯水池とは何か」にまとめています。
はじめに|堰堤のそばに残る、もう一つの水道遺産
烏原貯水池といえば、多くの人が思い浮かべるのは立ヶ畑堰堤だと思います。
明治38年に竣工した石積みの堰堤。
水面に沿って緩やかに弧を描く姿。
堰堤下流側から見上げた時の、石の壁がそそり立つような迫力。
しかし、烏原貯水池には、堰堤だけでなく、かつて水道施設を管理していた建物も残っています。
それが、烏原貯水池旧管理事務所です。
場所は、立ヶ畑堰堤のすぐそば。
堰堤の東側、石段を上がった高台にあります。
現在の建物には案内板や「神戸市指定景観資源 烏原貯水池」のプレートが設置されており、一見すると歴史施設・見学施設のようにも見えます。
ところが、この旧管理事務所について公開資料を追っていくと、単に「古い建物が保存されている」という話では終わりません。
この建物は、令和2年度には一度、「烏原貯水場旧管理事務所解体撤去工事」として契約情報が公表されていました。
しかしその後、神戸市水道局への確認により、令和3年度に旧管理事務所棟の利活用事業として事業者を公募する計画へ変更されたことが分かりました。
つまり、烏原貯水池旧管理事務所は、
解体撤去の対象から、歴史的価値を活かす利活用施設へ転じた建物なのです。
この記事では、神戸市の公開資料、現地で確認できる状況、神戸市水道局からの回答をもとに、烏原貯水池旧管理事務所の現在地を整理します。
この記事のポイント
- 烏原貯水池旧管理事務所は、大正5年に建てられた水道管理施設。
- 令和2年度には「烏原貯水場旧管理事務所解体撤去工事」として契約情報が公表されていた。
- 神戸市水道局への確認により、令和3年度に利活用事業者を公募する計画へ変更されたことが分かった。
- 現在は民間事業者へ所有権が移転し、事業に必要な敷地を借地のうえ一体的に管理している。
- 通常時の立ち入り・公開範囲については、水道局が事業者に確認中。

烏原貯水池旧管理事務所とは何か
神戸市の資料では、この建物は**「烏原水源管理事務所」**として整理されています。
建築年代は大正5年、1916年。
構造は煉瓦造・一部木造の平家建。
屋根は寄棟形式の瓦葺で、一部に金属板葺の下屋が付属していました。
もともとは、烏原貯水池の日常的な維持管理を行うための拠点でした。
堰堤、取水塔、導水路、放水設備など、水道施設は造って終わりではありません。水位を確認し、施設を点検し、異常があれば対応する。そのためには、現場を管理する建物が必要でした。
旧管理事務所は、その役割を担った施設です。
キャプション:旧管理事務所に設置された案内板。大正5年建築で、かつて事務室や宿直室などが置かれていたことが説明されている。

神戸市指定景観資源の資料では、この管理事務所棟について、煉瓦造の躯体に近代洋館建築の意匠を取り入れた歴史的景観資源として評価されています。
特に、縦長窓、半円アーチ窓、タイル張りの基礎、擬石仕上の柱形など、簡素ながらも大正期の水道施設らしい意匠が残る建物とされています。
烏原貯水池を歩くと、どうしても視線は堰堤や水面に向かいます。
しかし、この旧管理事務所を見ると、烏原水源が単なる構造物ではなく、人が常駐し、管理し、運用していた水道システムだったことが見えてきます。
関連記事:
一度は解体撤去の対象だった|神戸市に残る契約情報と水道局の回答
この旧管理事務所について調べていくと、神戸市の契約情報に気になる記録が見つかります。
令和2年度の工事として、
「烏原貯水場旧管理事務所解体撤去工事」
という契約情報が公表されています。
工事内容には、旧管理事務所について、
レンガ組積造・一部木造・平屋建ての解体撤去処分
と記載されています。
契約日は令和2年11月25日。
工期は令和2年11月26日から令和3年3月26日まで。
この情報だけを見ると、旧管理事務所は一度、解体撤去の対象として扱われていたことが分かります。
しかし、現在、建物は残っています。
案内板も設置され、神戸市指定景観資源としてのプレートも確認できます。
では、解体撤去工事はどうなったのか。
この点について神戸市水道局へ確認したところ、次の趣旨の回答がありました。
建築物としての歴史的価値を活かし、烏原貯水池の豊かな自然環境と調和を図る目的で、令和3年度に旧管理事務所棟の利活用事業として事業者を公募する計画に変更した。
これは、旧管理事務所の現在地を理解するうえで非常に重要な回答です。
つまり、旧管理事務所は、解体撤去の対象として扱われた後、
歴史的価値を活かす利活用事業へ計画変更された
ということです。
【写真挿入3】
キャプション:

ここに、烏原貯水池旧管理事務所の記事としての大きな意味があります。
ただ古い建物が残ったのではありません。
一度は失われる可能性があった建物が、歴史的価値を理由に、活用へと方向転換されたのです。
神戸市民にとって、これは小さな話ではありません。
水道施設、土木遺産、近代化遺産は、日常の中では見過ごされがちです。
しかし、都市を支えてきた施設をどう残し、どう活かすかは、神戸という街の記憶をどう扱うかという問題でもあります。
現在は民間事業者に所有権が移転している
神戸市水道局への確認では、現在の所有・管理関係についても回答がありました。
水道局の回答によると、現在、旧管理事務所は民間事業者に所有権を移転しており、事業に必要な敷地は事業者が借地したうえで、一体的に管理しているとのことです。
ただし、一部には水道事業の設備管理用敷地の範囲が含まれるとの説明もありました。
ここは、現地を理解するうえで重要です。
つまり現在の旧管理事務所は、単純に「神戸市水道局の施設」として残っているわけではありません。
建物は民間事業者に移り、利活用事業の対象となっている。
一方で、周辺には水道事業の管理用地も残っている。
このため、現地には少し分かりにくい状態が生まれています。
案内板や景観資源プレートがある。
見学ツアーでは旧管理事務所が見学対象になっている。
一方で、通常時にどこまで立ち入ってよいのかは、現地表示だけでは分かりにくい。
【写真挿入4】
キャプション:

【写真挿入5】
キャプション:

この点について、水道局からは、旧管理事務所棟の公開や利活用事業に伴う敷地への立ち入りについては、事業者に確認のうえ回答するとの連絡がありました。
つまり、少なくとも現時点では、通常時の立ち入り可否や公開範囲について、即答できるほど単純な状態ではないようです。
現地を訪れる方へ
旧管理事務所は、イベントや見学ツアーで見学対象となる一方、通常時の敷地内立ち入りや建物内部の公開については、現時点で確認中です。
周辺には水道事業の管理用地も含まれるため、現地では案内表示に従い、無断で敷地内に入らないようご注意ください。
今後、水道局または事業者から通常時の公開範囲について回答があった場合は、本記事に追記します。
関連記事:
民間企業・株式会社Happyによる利活用構想と「30年後の情景」
旧管理事務所の利活用には、株式会社Happyの名前が出てきます。
株式会社Happyは、神戸市長田区を拠点に、福祉、住まい、空き家活用、地域コミュニティづくりなどを展開する民間事業者です。
2023年には、就労継続支援B型事業所WAGOMUの立ち上げに関連して、アウトドア事業と福祉事業を組み合わせる構想が示され、その中で既存の空き家活用事業の一つとして、烏原貯水池旧管理事務所活用事業にも触れられています。
また、2025年には、株式会社Happyが、烏原立ヶ畑堰堤、湊川隧道、旧駒ヶ林公会堂など、神戸の近代化遺産を活用したユニバーサルツーリズムプログラム「30年後の情景」を開催すると発表しています。
この発表では、烏原貯水池の旧事務所棟を、地域内外の人が交流する拠点にすべく整備を進めていることが説明されています。
つまり、旧管理事務所は、単なる保存建築ではなく、
福祉、アウトドア、文化財活用、地域交流、ユニバーサルツーリズム
を組み合わせた拠点として構想されていたことが分かります。
【写真挿入6】
キャプション:

ただし、現地を見る限り、常時開かれた観光・交流施設として動いているようには見えにくい面もあります。
案内板はある。
プレートもある。
イベントツアーでは見学対象になっている。
しかし、通常時の人の気配や公開範囲は分かりにくい。
この点は、今後の確認が必要です。
現時点では、
旧管理事務所は、解体撤去の対象から利活用施設へ転じたが、日常的に開かれた拠点としてどこまで機能しているかは確認中
「神戸土木遺産旅」と旧管理事務所の見学
令和7年度には、神戸県民センターが神戸市と連携し、烏原貯水池、湊川隧道、兵庫運河を「三大土木遺産」として発信するプロジェクト「神戸土木遺産旅」が行われています。
その見学ツアーの行程には、烏原貯水池での
旧管理事務所見学・貯水池ハイキング
が含まれています。
これは、旧管理事務所が少なくとも、イベントやガイド付きツアーの場面では見学対象として扱われていることを示しています。
一方で、通常時にも同じように入れるのか、建物内部が公開されているのかは、現時点では明確ではありません。
【写真挿入7】
キャプション:

このような施設は、記事で紹介する時に注意が必要です。
「行けます」と簡単に書くと、読者が通常時に敷地へ入ってしまう可能性があります。
一方で、「立ち入り禁止」と断定するにも、現在の正式な運用確認が必要です。
そのため本記事では、現時点では次のように整理します。
旧管理事務所は、イベントや見学ツアーでは見学対象となっている。
ただし、通常時の敷地内立ち入りや建物内部の公開については、現在確認中であり、現地表示だけでは判断しにくい。
神戸市指定景観資源としての烏原貯水池
烏原貯水池は、堰堤、取水塔、旧管理事務所、周辺の水と森の景観を含めて、神戸市指定景観資源として位置づけられています。
神戸市の資料では、烏原貯水池について、市街地の喧騒から離れ、水と緑に満たされた湖畔が、ハイキングやレクリエーションの場として親しまれてきたことが説明されています。
立ヶ畑堰堤については、国登録有形文化財でもあり、明治期の神戸水道を支えた重要な土木構造物です。
一方、旧管理事務所は、大正期の水道拡張と管理運用を伝える建物です。
堰堤は水を貯める施設。
取水塔は水を取り込む施設。
導水路は水を送る施設。
そして管理事務所は、それらを日常的に見守り、運用するための施設。
この4つをセットで見ることで、烏原貯水池は単なる「きれいな散策地」ではなく、神戸の都市形成を支えた水道システムとして見えてきます。



なぜこの建物を記事にする価値があるのか
旧管理事務所は、堰堤のように目立つ施設ではありません。
木々に隠れ、道から見えにくく、現地の立ち入り可否も分かりにくい。
知らなければ、その存在に気づかずに通り過ぎてしまうかもしれません。
しかし、この建物には、神戸市民として知っておく価値があります。
第一に、神戸の近代水道を支えた管理施設であること。
第二に、一度は解体撤去の対象となったが、歴史的価値を理由に利活用へ転じたこと。
第三に、現在は民間事業者に所有権が移り、地域活用・福祉・ツーリズムの文脈で再利用が試みられていること。
第四に、その一方で、通常時の公開範囲や活用状況がまだ分かりにくいこと。
これは、神戸の歴史的建築物や土木遺産をどう残すのか、そして残した後にどう活かすのかという問題でもあります。
保存するだけでは、建物は人から忘れられていきます。
しかし、活用するには、管理、公開範囲、安全性、地域との関係、事業の継続性が必要です。
烏原貯水池旧管理事務所は、まさにその途中にある施設だと感じます。

まとめ|解体撤去から利活用へ、旧管理事務所はいま途中にある
烏原貯水池旧管理事務所は、大正5年に建てられた水道管理施設です。
かつては立ヶ畑堰堤や烏原水源を管理する現場拠点でした。
その後、管理機能を終え、令和2年度には解体撤去工事として契約情報が公表されていました。
しかし神戸市水道局への確認により、令和3年度に、建築物としての歴史的価値と烏原貯水池の自然環境との調和を活かすため、利活用事業として事業者を公募する計画へ変更されたことが分かりました。
現在、旧管理事務所は民間事業者に所有権が移転され、事業に必要な敷地は借地のうえ一体的に管理されています。
一方で、通常時の公開範囲や敷地への立ち入り可否については、現地表示だけでは分かりにくく、水道局も事業者へ確認中とのことです。
その意味で、旧管理事務所は、
保存された建物であると同時に、
これからどう開かれていくのかが問われている建物でもあります。
烏原貯水池を歩く時、立ヶ畑堰堤の美しさだけでなく、そのすぐそばにある旧管理事務所にも目を向けると、神戸の水道遺産がより立体的に見えてきます。
この建物は、ただの古い事務所ではありません。
神戸の水を支えた現場の記憶であり、
一度は失われかけた近代水道遺産であり、
そして今、保存と活用のあいだに立っている建物です。
追記予定|通常時の公開・立ち入り可否について
旧管理事務所の通常時の敷地内立ち入り、建物内部の公開、イベント時以外の見学可否については、神戸市水道局が事業者へ確認中です。
回答があり次第、本記事に追記します。
参考資料・確認情報
・神戸市「烏原貯水場旧管理事務所解体撤去工事」契約情報
・第103回都市景観審議会 議事1-3資料「神戸市指定景観資源の指定について【烏原貯水池】」
・神戸市水道局 経営企画課からの回答
・株式会社Happy「30年後の情景PROJECT」関連発表
・神戸県民センター「神戸土木遺産旅」見学ツアー開催報告
・現地確認資料
烏原貯水池・烏原水源の全体像は、こちらにまとめています。



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