菊水山に刻まれた道と人の記録 ― 登山道整備20年、岡本学さんの歩み ―

烏原登山会 岡本学さん 御年80歳

※菊水山の名称、石碑、菊水紋、登山道整備などの全体像は、固定ページ「菊水山とは何か」にまとめています。

神戸市の菊水山。
早朝、まだ薄暗い時間帯から、この山で作業を続けている人がいる。

この人の名前は、検索しても出てこない。

岡本学さん。現在80歳。
およそ20年にわたり、登山道の整備を一人で続けてきた。

菊水山山頂 石碑と日の出 2026年4月撮影筆者
菊水山山頂へ丸太を取りに来る岡本さん。2026年4月撮影筆者


目次

■始まりは「地獄の階段」だった

整備のきっかけは、「地獄の階段」と呼ばれる場所だった。
当時の登山道は、雨による侵食でV字にえぐられ、非常に登りづらい状態だったという。

最初に行ったのは、ロープの設置。
そこから一つずつ、崩れた道を直していった。

「気が遠くなる。キリがない」
それでも、目に見えて道が良くなっていくと、また手を動かす気力が湧いてくる。

作業はすべて独学。
必要なことを、自分で覚えていった。

菊水山名物の通称地獄の階段
菊水山名物の通称地獄の階段


■丸太を運び、道を作る

現在の登山道に設置されている丸太。
その多くは、岡本さんの手によるものだ。

丸太は北側の管理道から山頂付近まで運ばれ、
そこから人の手で運搬される。

岡本さんは背負子を使い、
山頂から必要な場所まで丸太を下ろしていく。

1本およそ1メートル、重さは約2キロ。

数字だけ見れば軽く感じるが、
傾斜のある山道を何度も往復する作業は、決して楽ではない。

これまでに、丸太を背負ったまま転落したことも2度ある。

菊水山山頂に積まれた丸太
菊水山山頂に積まれた丸太 2026年4月撮影筆者
背負子を使用して山頂から丸太を運搬。この日は2本を運ぶ。
背負子を使用して山頂から丸太を運搬。この日は2本を運ぶ。


作業は朝4時から。
限られた時間の中で、少しずつ積み上げていく。

猪は「お友達」だという。
それくらい、この山に長く関わってきた。

20年で変わった山

かつては、むき出しで荒れていた登山道。
それが今では、丸太で補強され、多くの人が歩ける道になっている。

鵯道をはじめ、各所に設置された丸太。
その多くに岡本さんの手が入っている。

道が整備されるにつれて、登山者も増えた。

一方で、マナーの問題もある。
縦走大会のランナーの中には、荒い走り方をする人もいるという。

20年かけて設置された山道の丸太。
20年かけて設置された山道の丸太。

新しく岡本さんによって設置された丸太。2026年4月撮影
新しく岡本さんによって設置された丸太。2026年4月撮影

また、資材の運搬環境も変わった。
以前は下から車で搬入できたが、現在はそれができず、
山頂から人力で運ぶ形になっている。


■一人で続けてきた理由

なぜ20年も続けてきたのか。

「やめようと思ったことはない」

誰かに感謝されることも、ほとんどない。
夜明け前に山に入る、ごく一部の人しかその作業を知らない。

この活動は誰のためなのか――
そう考えること自体が、的外れなのかもしれない。

山道で丸太設置作業をする岡本学さん
山道で丸太設置作業をする岡本学さん

80歳の現在、そしてこれから

昨年、岡本さんはがんの手術を受けた。
その影響で、一時は山に入れない時期があった。

今年に入り、ようやく戻ってきた。
現在は無理をせず、体の状態を見ながら作業を続けている。

この期間に行われた大規模整備

岡本さんが山に入れなかった時期、
菊水山では神戸市による大規模な森林整備が実施された。

詳しくは以下の記事に記録している。
菊水山の整備記録|2026年1月〜3月と建国記念日前後の伐採の実態

この整備は、神戸市森林整備事務所によるもの。
個人の整備と行政の整備が、それぞれの役割で山を支えている。

登山道は管理が曖昧で
ボランティアが実質支えているケースが多い


菊水山伐採現場 、山頂 整備後の広範囲カット
神戸市森林整備事務所による菊水山山頂整地後の様子(2026年1月撮影)

後継者はいない

「わしがおらんくなったら、誰がやるんやろな」

そう語る岡本さんに、後継者はいない。

菊水山の南側の登山道は岡本さん。
大規模な伐採や危険木の処理は行政。

一つの仕組みではなく、
複数の支えで成り立っているのが現実だ。

山を歩く人へ


烏原登山会 岡本学さん 御年80歳
烏原登山会 岡本学さん 御年80歳

菊水山の登山道は、自然のままに存在しているわけではない。
そこには、人の手による積み重ねがある。

そしてその多くは、記録されることもなく、静かに続けられている。

この記録が、その一端を伝えるものになればと思う。


※登山道整備は地域の方々により支えられています 本動画は個人の記録です。入会に関しては各自の判断でお願いいたします。

菊水山の歴史と現地踏査の全体像は、こちらにまとめています。

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