笹藪だった旧道は、こうして歩ける道になった。
菊水山には、地獄の階段ルートとは別に「ガンチャン新道」と呼ばれる急斜面ルートがある。
現在ではロープが整備され、歩ける道として利用されているが、数年前までは笹藪に覆われ、入り口すら分かりにくい旧道だった。
その道を、草刈りとロープ設置によって少しずつ支えてきた人物がいる。
菊水山の登山道整備を約20年続ける、岡本学さん(80歳)だ。
2026年5月某日。
日の出時刻5時5分の菊水山山頂から、岡本さんとともにガンチャン新道を下り、草刈り整備の現場に同行した。

ガンチャン新道とは? 笹藪だった旧道
ガンチャン新道は、菊水山のバリエーションルートのひとつ。
旧菊水道とも呼ばれることがあり、地獄の階段ルートとは異なる急斜面を下る。
初めてこの道を歩いたのは2021年頃。
六甲全山縦走路休憩所横の石畳放水路付近から入るその道は、笹藪に覆われ、どこが入り口かも分かりにくかった。
服やリュックの中にまで草が入り、「二度と登りたくない」と思うほどだった。
しかし冬場になると再び挑戦したくなり、何度か登るうちに、ロープだけは以前から設置されていることに気づいた。
「誰かが整備している」
その“誰か”が、岡本さんだった。

「あの草刈り、わしがやったんや」
2026年4月。
約1年ぶりに早朝の菊水山で再会した岡本さんは、胃がんで胃の摘出手術を受け、約1年近く入院していたことを明かしてくれた。
「まだ抗がん剤の副作用はきついけど、山が気になってな」
その言葉のあと、ガンチャン新道の話になる。
「あのバリエーションルートの草刈りは、わしがやったんや。丸太も設置した」
数年前まで笹藪だった旧道を、少しずつ草を刈り、ロープを設置し、歩ける道として支えてきた。
その現場を、今回実際に同行しながら記録させてもらった。
ロープ、倒木処理、草刈り——道を支える現場
山頂からガンチャン新道へ入る分岐には、以前より分かりやすい目印が置かれていた。
急斜面にはロープがほぼ全線にわたり設置されている。
そのロープも、岡本さん自身が設置してきたものだという。
途中の倒木も、ノコギリで切断し除去。
背負うリュックには、草刈機の燃料、道具、蚊取り線香など。10kg以上の装備を背負いながら、ロープ道を軽々と下っていく。
学生時代は器械体操の選手。
鉄棒、平行棒、あん馬、跳馬、床、吊り輪——6種目をこなしていたという身体能力は、80歳になった今も山の動きに生きていた。
【ガンチャン新道入口分岐】

【ロープ急斜面】

【倒木処理・草刈り作業】

ゴミ回収まで続ける理由
烏原川底へ下り、捨てられた粗大ゴミを回収する。
危険を伴う作業でも、岡本さんはためらわない。
なぜそこまでやるのか。
「山がきれいに保たれていると、気持ちいいやろ」
特別な理念でも、義務感でもない。
ただ、その感覚だけ。
だが、その“気持ちいい”を守るために、草を刈り、ロープを張り、ゴミを拾う。
20年続けるには、十分すぎる理由だった。
【ゴミ回収作業】

整備された道を、誰かが歩く
かつて笹藪だった道。
迷いやすく、入り口も分かりにくかった旧道。
その道は今、歩ける。
それは自然にそうなったわけではない。
誰かが、誰にも知られない時間に、草を刈り、ロープを張り、危険を減らしてきたからだ。
整備された道を、誰かが歩く。
それが、そのままやりがいになる。
最後に
菊水山ガンチャン新道は、単なるバリエーションルートではない。
そこには、20年にわたり山を支えてきた一人の整備者の時間が刻まれている。
私たちが何気なく歩く山道。
その裏側にある積み重ねを知るだけで、山の見え方は変わる。
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注意
ガンチャン新道はバリエーションルートであり、一般的な階段ルートより危険を伴う場合があります。
通行の際は安全に十分留意し、無理のない判断で行動してください。


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