烏原貯水池はなぜ休止中なのか|水道局回答で分かった予備水源としての現在地

神戸市街地のすぐ背後に広がる、菊水山・烏原貯水池・鵯越周辺の山麓地域。

※本記事は、烏原貯水池・烏原水源を近代水道システムとして再構築する調査記事の一部です。全体像は「烏原貯水池とは何か」にまとめています。

目次

はじめに|烏原貯水池は現在どうなっているのか

烏原貯水池は、神戸の近代水道を支えてきた重要な水源地である。

立ヶ畑堰堤、取水塔、余水吐、周辺の水と森の周遊路など、現在も水道施設としての面影を色濃く残している。

一方で、現地を歩いていると、いくつかの疑問が浮かぶ。

烏原貯水池の周辺には、現在も多くの禁止事項が掲げられている。

・魚釣り禁止
・バーベキュー禁止
・水泳禁止
・たき火禁止
・犬の散歩禁止
・自転車、オートバイの乗り入れ禁止

水源地である以上、こうした注意表示は当然のようにも見える。

しかし、神戸市水道局に確認したところ、烏原貯水池は現在休止中であり、満水位より約4.0メートル低い水位で維持管理されているとの回答を得た。

では、烏原貯水池はいつから、なぜ休止中となったのか。

また、神戸市水道局の公式ページに掲載されている「烏原貯水池 31,000㎥/日」という水源確保量は、現在どのような意味を持つのか。

今回、神戸市水道局技術企画課から回答をいただき、烏原貯水池の現在の位置づけが少し見えてきた。

神戸市街地のすぐ背後に広がる、菊水山・烏原貯水池・鵯越周辺の山麓地域。
烏原貯水池・立ヶ畑堰堤。神戸の近代水道を支えてきた重要な水源施設である。

水道局回答|平成24年を最後に水道水源としての利用を停止

神戸市水道局技術企画課からの回答によると、烏原貯水池は平成24年を最後に水道水源としての利用を行っていない。

さらに、平成30年度以降は、神戸市の認可上も予備水源として登録されているとのことであった。

つまり、烏原貯水池は現在、通常の水運用において上水道原水として使用されている水源ではない。

かつて神戸の水道を支えてきた烏原貯水池は、現在は日常的な水道水源ではなく、予備水源として位置づけられている。

これは、多くの市民にとって意外な事実ではないだろうか。

現地を整備する登山会の方々や、水と森の周遊路を日常的に歩く人であっても、烏原貯水池が現在どのような位置づけなのかを正確に知る機会は少ない。

実際、神戸市水道局の公式ページには、2025年4月現在の水源確保量として「烏原貯水池 31,000㎥/日」と記載されている。

この表記だけを見ると、現在も日常的に水道水源として使われているように受け取る市民も少なくないと思われる。

水と森の周遊路
烏原貯水池周辺は、水と森の周遊路として多くの人に親しまれている。一方で、現在の水道水源としての位置づけは、一般には分かりにくい。

なぜ休止中となったのか|理由は水質悪化と経済性

今回の水道局回答により、烏原貯水池が水道水源としての利用を停止した公式理由は、水質悪化と経済性であることが分かった。

ただし、今回の回答だけでは、その内容を詳しく検証することはできない。

水質悪化については、どの水質項目が、いつ頃から、どの程度悪化したのかまでは示されていない。

また、自己水源として利用する場合の経費と、阪神水道企業団から受水する場合の費用を比較したとのことだが、その計算条件や内訳も示されていない。

そのため、現時点で言えるのは、烏原貯水池が予備水源化された公式理由が確認できたということであり、その判断の妥当性まで検証できたわけではない。

さらに注目されるのは、平成20年に石井ダムが完成し、その後、平成24年を最後に烏原貯水池が水道水源としての利用を停止しているという時系列である。

石井ダムの事後評価調書では、石井ダムは新湊川水系の治水安全度を高めるために整備され、平成20年6月に竣工したことが示されている。

この時系列が、烏原貯水池の水質や水運用にどのような影響を与えたのかは、今回の回答だけでは分からない。

水質悪化の具体的な内容、経済性判断の根拠、そして石井ダム完成後の水の流れや運用の変化については、今後さらに確認が必要である。

かつて神戸の水道を支えた烏原貯水池。現在は通常の上水道原水としては使用されていない。
かつて神戸の水道を支えた烏原貯水池。現在は通常の上水道原水としては使用されていない。

なぜ満水位より約4.0メートル低く維持しているのか

以前、浄水統括事務所からは、烏原貯水池は現在、満水位より約4.0メートル低い水位で維持管理しているとの回答を得ていた。

今回、その理由についても確認することができた。

水道局回答によれば、烏原貯水池では、大雨が降ったときなどに、高濁度や大量の河川水が流入することを防止するため、放水路を整備している。

しかし近年は、局地的大雨が多発している。

そのため、万一の上流取水ゲートの不具合や想定外の事態に備え、あらかじめ水位を下げて余裕を持たせておく運用を行っているとのことである。

つまり、現在の低水位管理は、単なる放置ではない。

大雨、高濁度水の流入、上流取水ゲートの不具合、想定外の事態に備えるための、安全余裕を持たせた維持管理である。

烏原貯水池 全景 現在 ダム 神戸 立ヶ畑堰堤
現在の烏原貯水池は、満水位より約4.0メートル低い水位で維持管理されている。局地的大雨や想定外の事態に備え、余裕を持たせる運用とのことである。

31,000㎥/日は何を意味するのか

神戸市水道局の公式ページ「神戸の水道の特徴」には、2025年4月現在の水源確保量として、烏原貯水池 31,000㎥/日 と記載されている。

この数字は、現在の日常的な実使用量なのか。

この点についても確認したところ、水道局からは、通常の水運用において烏原貯水池を上水道原水として使用することは考えていないとの回答があった。

一方で、大規模な渇水が発生した際のバックアップ能力や、災害時における生活用水としての活用が考えられるため、当面はフェールセーフティ的に予備水源としての位置づけを継続する考えとのことであった。

ここで重要なのは、「水源確保量」と「現在の実使用量」は同じではない という点である。

烏原貯水池の 31,000㎥/日 は、通常の水運用で毎日使っている量ではなく、非常時を含めた施設能力上の水源確保量、すなわち予備水源としての能力と理解するのが妥当である。

この点は、公式ページだけを見ても市民には分かりにくい。

「水源確保量」として掲載されていれば、現在も日常的に水道水源として使われていると受け止める人がいても不思議ではない。

さらに、この点は神戸市の自己水源の見え方にも関わってくる。

神戸市の水道は、自己水源と阪神水道企業団などからの受水によって成り立っていると説明されることが多い。しかし、烏原貯水池が2012年を最後に通常の水道水源として使われていないのであれば、少なくとも日常運用ベースで見た自己水源の割合は、単純に水源確保量だけを合計した数字とは異なるはずである。

つまり、烏原貯水池を含む水源確保量は、非常時を含めた「確保能力」を示す数字であり、現在の日常的な「実使用量」を示す数字ではない。

神戸市の自己水源を考える際には、この違いを分けて見る必要がある。

神戸市公式ページの使用水源割合 キャプション例: 神戸市の水道水源の割合。自己水源だけでなく、淀川水系など外部からの受水によって支えられている。

神戸市水道局公式ページでは、2025年4月現在の水源確保量として「烏原貯水池 31,000㎥/日」と記載されている。ただし、通常の水運用では上水道原水として使用していないとの回答であった。

市民の認識とのずれ

烏原貯水池について投稿すると、多くの方から記憶や感想が寄せられた。

「子どもの頃、魚釣りは禁止だったが、雨上がりにそっと入って竹竿でナマズを釣った」

「当時は水道局の職員さんが見回りしていた」

「水泳をしていて所員に見つかり、学校が分からないように制帽を抱えて逃げた」

「烏原の水は水道水になっていないのか。それなら釣りやボート遊びをしてもよいのではないか」

「淀川の水を買うくらいなら、烏原を使えばよいのではないか」

こうしたコメントから見えてくるのは、烏原貯水池に対する市民の認識が一つではないということである。

ある世代にとって烏原貯水池は、水道局の職員が見回る厳格な水源地だった。

一方で、子どもたちにとっては、ナマズを釣り、クワガタを採り、泳いだ記憶のある身近な遊び場でもあった。

現在では、水源地として多くの禁止事項が残る一方で、実際には通常の上水道原水としては使われていない。

この事実を知ると、「それなら釣りをしてもよいのではないか」と感じる人が出てくるのも自然である。

しかし、水道局回答を踏まえると、烏原貯水池は単なる使われなくなった池ではない。

大規模渇水や災害時の生活用水に備える、フェールセーフティ的な予備水源として維持されている。

そのため、現在も水源環境として守る必要がある。

問題は、禁止事項そのものではなく、現在の位置づけが市民に十分伝わっていないことではないだろうか。

現地に掲げられている注意表示。烏原貯水池が現在どのような位置づけで維持管理されているのか、市民に分かりやすく説明することも今後の課題である。
烏原貯水池周辺には、現在も多くの禁止事項が掲げられている。通常の水道原水としては使用されていないが、予備水源として維持されていることを考えると、水源環境の保全は現在も重要である。
図 烏原貯水池周遊路入口看板。コース外立入禁止や水源地としての注意事項が示されている。
市民に親しまれる水と森の周遊路。水源地としての歴史と、予備水源としての現在の位置づけを分かりやすく伝えることが求められる。

予備水源として残る烏原貯水池

今回の水道局回答により、烏原貯水池の現在地が明確になった。

烏原貯水池は、平成24年を最後に水道水源としての利用を行っていない。

平成30年度以降は、神戸市の認可上も予備水源として登録されている。

通常の水運用では、上水道原水として使用することは考えていない。

しかし、大規模渇水や災害時には、バックアップ能力や生活用水としての活用が考えられる。

そのため、当面はフェールセーフティ的に予備水源として維持される。

これは、烏原貯水池が完全に役割を終えたという意味ではない。

日常の水道水源としての役割は終えたが、非常時に備える水源としての役割は残っている。

烏原貯水池は、神戸近代水道の遺構であると同時に、現在も神戸市の水道運用の中に位置づけられている施設である。

烏原貯水池(立ヶ畑)堰堤取水塔。旧管理事務所は、この水道施設を管理・運用するための現場拠点だった。
烏原貯水池取水塔に掲げられた「養而不窮」の扁額。人々を養い、その恵みが尽きることはない、という意味を持つ。現在の烏原貯水池は、日常の水道水源ではなく、非常時に備える予備水源として維持されている。

まとめ|休止中だが、終わった水源ではない

烏原貯水池は、神戸の近代水道を支えた重要な水源地である。

しかし、平成24年を最後に水道水源としての利用を停止している。

平成30年度以降は、神戸市の認可上も予備水源として登録されている。

休止の主な理由は、水質の悪化である。

さらに、自己水源としての経費と、阪神水道企業団からの受水費を比較した結果、烏原貯水池を日常的な水道水源として利用する優位性が確認できなかったことも、取水停止の理由であった。

現在は、満水位より約4.0メートル低い水位で維持管理されている。

これは、局地的大雨、上流取水ゲートの不具合、想定外の事態に備え、余裕を持たせるための運用である。

公式ページに掲載されている「烏原貯水池 31,000㎥/日」は、現在の日常的な実使用量ではなく、予備水源としての能力を示すものと理解できる。

烏原貯水池は、通常の水道原水としては使われていない。

しかし、大規模渇水や災害時の生活用水に備える、フェールセーフティ的な予備水源として維持されている。

休止中ではある。

しかし、終わった水源ではない。

烏原貯水池は、神戸近代水道の歴史を伝える遺産であり、同時に、非常時に備える現在の水道施設でもある。

今後、現地の案内表示や公式ページでも、こうした現在の位置づけが市民に分かりやすく伝えられることを期待したい。


関連記事


参考資料

  • 神戸市水道局技術企画課からの回答、2026年
  • 神戸市水道局公式ページ「神戸の水道の特徴」
  • 神戸市 編『神戸市水道誌』神戸市、1910年
  • 神戸市 編『神戸市水道拡張誌 上巻』神戸市、1922年
  • 神戸市 編『神戸市水道拡張誌 附図』神戸市、1922年
  • 神戸市水道局『神戸市水道七十年史』神戸市水道局、1973年
  • 烏原貯水池・立ヶ畑堰堤 現地調査、2026年
  • 烏原貯水池周辺案内板 現地調査、2026年

烏原貯水池・烏原水源の全体像は、こちらにまとめています。

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