2026年8月9日、千苅ダムを見学した後、車で宝塚市北部の丸山湿原へ向かいました。
千苅ダムから丸山湿原駐車場までは、車で約30分。
丸山湿原群は、宝塚市北部の西谷地域、標高328.4mの丸山南西側に位置する5つの湿原からなる湧水湿原群です。
現地の案内板には、
「兵庫県一の湧水湿原・丸山湿原へ」
と記されています。

丸山湿原駐車場からスタート

丸山湿原の入口には駐車場があります。
駐車できるのは目測で8台程度。
ここから徒歩で丸山湿原群を巡ります。
駐車場には丸山湿原群の案内板が設置されており、湿原の位置や散策ルート、それぞれの場所までの参考所要時間を確認できます。

今回は案内図を参考に、湿原と視点場などを巡る周遊コースを歩きました。
実際に歩いてみると、写真を撮ったり植物を観察したりしながらで、約1時間でした。

森の中で見つけた真っ赤なツチアケビ
歩き始めて間もなく、林床に異様なほど鮮やかな赤色の植物が現れました。

これはツチアケビ(土木通)。
ラン科の植物で、写真に写っている赤い部分は花ではなく、果実です。
緑色の葉を持たず、菌類から栄養を得る菌従属栄養植物という、変わった生態を持っています。
周囲には赤いテープが張られていました。
何らかの管理や観察のためにマーキングされているものと思われますが、目的までは現地では確認できませんでした。
それにしても、これだけ多数の赤い果実を付けたツチアケビは、林の中でもひときわ目を引きます。
丸山湿原の「竹筒ポスト」
さらに進むと、ちょっと面白いものがあります。
丸山湿原の竹筒ポストです。
「どこから来ましたか」「何の目的で訪れましたか」といった質問に対し、該当する竹筒へ石を入れる仕組みになっています。
デジタルのカウンターではなく、石の数で来訪者の傾向を調べるという素朴な仕掛け。
丸山湿原らしい、ちょっとした名物と言ってもよさそうです。
兵庫県指定天然記念物・丸山湿原群
しばらく歩くと、天然記念物エリアを示す標識が現れます。

ここから、いよいよ湿原らしい景観になってきます。
湿原内部には木道が設けられており、貴重な植生を傷めることなく湿原を観察できます。
現地では、動植物や昆虫の採取・捕獲は禁止されています。
また、柵の内側へ入らないこと、外来植物の種子を持ち込まないよう入山前に靴底の泥を落とすことなども呼びかけられています。
初めて見た天然のサギソウ
そして今回、最も印象に残ったのがこちらです。

サギソウ。
ラン科の植物で、その名の通り、白鷺が翼を広げて飛んでいるような花を咲かせます。
園芸植物として見たことはあっても、自然の湿原に咲くサギソウを見るのは今回が初めてでした。
しかも、一輪だけではありません。
湿原の中をよく見ると、白い花があちらこちらに浮かんでいます。

まるで小さな白鷺の群れが湿原の上を飛んでいるようです。
8月に丸山湿原を訪れたからこそ見ることのできた風景でした。
丸山湿原はどうやってできたのか

丸山湿原は、単に山の中に水が溜まってできた場所ではありません。
周辺には、白亜紀後期に形成された有馬層群の凝灰岩が広く分布しています。
この凝灰岩は風化しやすく、非常に細かなシルトとなって斜面から谷底へ流れ込みました。
シルトが谷底を埋めて傾斜を緩やかにし、水が停滞しやすい地形が形成されたことによって、現在の湿原が発達したと考えられています。
興味深いのは、その年代です。
湿原の最深部から見つかった植物片の放射性炭素年代測定から、丸山湿原が本格的に発達したのは300~400年前、江戸時代以降と考えられているそうです。
つまり丸山湿原は、何万年も前から変わらず存在する湿原ではなく、人々がこの地域で暮らしてきた比較的新しい時代に発達した湿原なのです。
視点場から丸山湿原を眺める

周遊コースには、湿原全体を見渡すことのできる視点場があります。
木道から植物を間近に見るのとは、また違った景色です。

ここから見ると、湿原が山に囲まれた緩やかな谷底に形成されていることがよく分かります。
案内板で読んだ「シルトが谷底を埋めて形成された湿原」という説明が、実際の地形と結びつきます。
葉の上にいた小さなハッチョウトンボ
さらに湿原では、こんな小さな生き物にも出会いました。

ハッチョウトンボです。
体長はわずか2cmほど。
日本で最も小さいトンボとして知られています。
成熟したオスは鮮やかな赤色になりますが、今回撮影した個体は黄色味が強く、メス、あるいは未成熟個体と思われます。
普通のトンボを想像して探していると、あまりの小ささに見落としてしまいそうです。
サギソウだけでなく、この小さなハッチョウトンボも、丸山湿原の豊かな生物多様性を象徴する存在です。
丸山湿原を約1時間歩いて
丸山湿原駐車場を出発して、ツチアケビを観察し、木道を歩き、サギソウやハッチョウトンボを探しながら視点場まで巡って、所要時間は約1時間。
単純に歩くだけなら、もう少し短時間で回れるでしょう。
しかし丸山湿原は、速く歩いて通過するよりも、植物や昆虫を探しながらゆっくり歩く方が面白い場所です。
特に今回訪れた8月は、サギソウが湿原の中で白い翼を広げ、ハッチョウトンボが飛び交う季節。
さらに森では真っ赤なツチアケビにも出会いました。
千苅ダムから車で約30分。
同じ北摂・西谷地域にありながら、巨大な近代土木遺産である千苅ダムとはまったく異なる、地質、生態系、里山の歴史がつくり出した景観を見ることができます。
千苅ダムと丸山湿原を一日で巡ったことで、この地域の「水」を、人工のダムと自然の湿原という二つの側面から見ることができました


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