城ヶ越山の読みは何か|大正・昭和初期文献と神戸新聞から検証【菊水山の旧称】

菊水山の歴史を調べる中で、ひとつの根本的な疑問に突き当たる。
それが「城ヶ越山」の読みである。

一般的に知られる名称ではなく、また地図にも記載されていないこの山名は、文献によって読みが大きく揺れている。

本記事では、大正期・昭和初期の登山文献、および昭和10年の神戸新聞をもとに、
「城ヶ越山」の読みが確定していたのか、それとも未確定であったのかを検証する。

2026年3月 菊水山山頂 日の出+石碑

目次

城ヶ越山とは何か|地図に存在しない山名

城ヶ越山は、現在の菊水山に対応すると考えられる名称である。

しかし、陸地測量部の地図(五万分一・二万分一)には山名の記載がなく、
当時においても公式な山名ではなかったことがわかる。

そのため、この名称は登山者の間で用いられた通称であり、
公的に確定された名称ではなかった。


大正13年『近畿の登山』に見る読みの揺れ

大正13年(1924)『近畿の登山』では、城ヶ越山に明確なルビが確認できる。

👉 本文
城ヶ越山(しろがごえさん)

一方で、同一文献の索引では

👉 索引
城ヶ越山(しろがこしやま)

と記載されている。

つまり、同一資料内においてすでに読みが統一されていない。


ルビ比較

👉 文献(ルビ比較)

P119 城ヶ越山(しろがごえさん)
P6 索引
城ヶ越山(しろがこしやま)ー 119

出典:大正13年(1924)『近畿の登山』

昭和3年文献におけるさらなる混乱

昭和3年(1928)の文献では、この傾向はさらに顕著になる。

■『古蹟と伝説を探りて近畿乃山々』

  • しろがこしやま
  • しろがごえさん
  • じょうがこしさん
  • じろがこえさん

👉 同一文献内で4種類の読みが混在


■『コドモづれの近畿登山』

  • しろがこしやま(統一)

ここから言えることは明確である。

👉
読みは存在していたが、統一されていない


昭和10年 神戸新聞の決定的資料

昭和10年5月18日の神戸新聞では、次のような表記が確認できる。

👉
城(しろ)ヶ越山

ここで重要なのは、

  • 「城」にはルビあり
  • 「越」にはルビなし

という点である。


なぜ「越」にはルビがないのか

従来は
👉 「一般的に読めたため省略」
と解釈されがちである。

しかし本研究では別の可能性を提示する。

👉

当時、「越」の読みが確定していなかった可能性


理由👇

  • 文献間で「こし/ごえ/こえ」揺れ
  • 同一文献内でも不統一
  • 統一された読みが存在しない

👉

そのため新聞は

確実な部分(しろ)だけにルビを付した

と考えるのが自然である。


臍岩が示す当時の登山文化

大正期の登山大会では、

大倉山 → 鍋蓋山 → 臍岩(へそいわ) → 烏原貯水池

というルートが確認できる。

ここで注目すべきは、
👉 山名ではなく「臍岩」が使われている点である。


👉

これは

山名よりもランドマークが重視されていた登山文化

を示している。


臍岩周辺の現地動画


現地調査|現在の菊水山との対応

2017年以降の継続的な現地観察により、

  • 山頂南側の急峻な岩場
  • 露出した岩の形状
  • ルート上の位置

が文献と一致することを確認している。

菊水山頂上近くの岩場の登り

昭和10年における名称の確定|菊水山へ

昭和10年(1935年)、大楠公六百年祭により
城ヶ越山は「菊水山」として再定義される。

昭和10年5月20日の神戸新聞に掲載された菊水紋。山肌に若松で紋が描かれている。

石碑除幕の様子。神戸新聞(昭和11年6月5日)

👉

ここで初めて

名称が固定される


結論|城ヶ越山の読みは存在したのか

本研究から導かれる結論は明確である。

👉

  • 「しろがごえさん」は有力な読みの一つ
  • しかし唯一の正解ではない
  • 文献上、読みは統一されていない

👉

城ヶ越山には確定した読みは存在しなかった


まとめ

城ヶ越山とは、

  • 地図に存在しない山名であり
  • 登山者の間で使用された通称であり
  • 読みは大正期から昭和初期にかけて揺れていた

👉

“過渡期の山名”そのものだった


【関連記事】


【参考文献】

  • 『近畿の登山』近畿登山研究会 編(大正13年)(国立国会図書館デジタルコレクション所収)
  • 『古蹟と伝説を探りて近畿乃山々』山崎恒雄(昭和3年)(国立国会図書館デジタルコレクション所収)
  • 『コドモづれの近畿登山』木藤精一郎(昭和3年)(国立国会図書館デジタルコレクション所収)
  • 神戸新聞(昭和10年5月18日)
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